449.北朝鮮問題についての一問一答
このところ北朝鮮問題が議論され、このHPでもしばしば扱っているが、改めて論点整理を一問一答の形で行っておく。
 
問:南北分裂に日本は責任はあるのか?
 
答:一義的には米英ソの三国にある。ソ連は日ソ平和条約を破って参戦したことであり、英米はそれをそそのかしたゆえである。ただし、日本も敗戦を受け入れる過程で、朝鮮半島が分裂しなくてすむような受け皿を考えておくべきだったという意味で道義的な責任が残る。
 
問:最初から韓国は豊かで北朝鮮は貧しかったのか。
 
答:1960年代半ばまでは北朝鮮の方が豊かだった。日本が重化学工業などの投資をしたと言うこともあるが、それと同時に、計画経済のもとで一時的な生産力の向上には工業も農業も成功した。ところが、日韓国交回復後、韓国は日本の産業政策などを採り入れ順調に成長軌道に乗ったのに対して、北朝鮮は不振になった。その背景としては、この時代に社会主義国が全般的に壁に突き当たったということと、西側から買い入れた最新設備をソフト軽視がたたって使いこなせず、借金ばかり増えたという背景がある。日本も輸銀などの資金を貸したが焦げ付いている。
 
問:北への帰還者が多くあり、また、朝鮮総連が力を持つに至ったのはなぜか?
 
答:もともと日本におられる在日の韓国・朝鮮人はほとんどが慶尚道など南部出身者である。北の人はどちらかといえば旧満州などに働きに行った。ところが、李承晩政権が人口過剰から在日の人たちの帰還を嫌い民族教育にも熱心でなかったなどの背景の中で、北朝鮮系の朝鮮総連が学校の設置などに取り組み、また、北への帰国を提案しそれに賛同する人も多かった。日本政府も「やっかいばらい」のような気持で後押ししたという見方もある。こうした民族愛に訴える運動方針がある種の共感を呼び、在日の人々の約40%が総連系となったが、そのほとんどは南出身者であるのがややこしいところだ。このことに限らず、韓国でも米国追随の状況に反発し北朝鮮に民族的共感を持つ人はに多く、韓国の人が意外に「反北」でもないことは事実として認めざるを得ない。
 
問:北朝鮮における朝鮮総連や帰還者はどのような立場に置かれているか?
 
答:南部出身者がほとんどということもあり微妙なものがある。また、帰還者も、親族の仕送りなどをそのまま受け取れるとすると、北朝鮮のほかの人に比べてはるかに豊かな生活ができることになるが、社会的な安定のためにもそうもいかず、北朝鮮社会にとっても頭の痛い問題として試行錯誤が繰り返されている。社会主義圏の崩壊に伴い在日からの送金はますます重要になり、バブルのころは在日の人々もそれに応えたが、いまは苦しくなっている。
 
問:もっと早い国交回復はできなかったのか。
 
答:日中国交回復前には事実上困難だった。それに、日本が韓国との間で賠償を払わないなどを内容とする形で国交を回復したのちは、基本的には同条件を呑むしかないが、北朝鮮としてはそれも政治的判断としてできなかった。日中国交回復後も、韓国の政治が混乱する中で、経済的にはともかく政治的にはシアヌークの亡命を受け入れるなど北朝鮮は悪い国際的な立場にあったわけでなかったなかで、ラングーン事件や拉致事件を起こしあちこちにゆさぶりをかけた。しかし、1988年のソウル五輪が大韓航空機爆破事件にもかかわらず成功した後は、経済自由化、海外への開放路線への模索が始めざるをえなかったが、守旧派の抵抗もあり、ようやく最近になって具体的な歩みが始まったとみるべきだろう。
 
問:金丸訪朝団は?
 
答:「戦後補償」を金日成が金丸信に呑ませたことがかえって交渉の妨げになった。外交交渉で相手に「勝ちすぎる」ことはしばしば禁物である好例であり、いまは逆に日本の立場が強いからといって調子に乗らない方が無難だ。
 
問:コメ支援など融和路線をとるべきでなかったのでないか。
 
答:国交回復への具体的な地合が整わない以上は、暴発させないためにも、できるだけミサイル開発などに使われにくいような形でささやかな支援をして時間稼ぎをする以外に妙案はなかったと思う。
 
問:社民党、共産党、それに自民党の一部が北朝鮮とつながりが深かったことに批判があるが。
 
答:以前は韓国の独裁政権に対する肩入れのほうが非常に問題になっていたことを思い起こして欲しい。本当の意味での民主主義的な人たちとだけ付き合っておればよいのならそれにこしたことはないが、政治家が役割分担をしていろんな勢力とコンタクトを持つことは結果的に意志疎通のルートの確保などを通じて国益の増進に役立つのが現実であり、岸信介元首相につながる韓国ロビーにせよ、北朝鮮シンパの存在にしても存在意義はそれなりに大きいものがあったのではないか。
 
問:拉致の背景と評価は?
 
答:拉致被害者は皆さん誠に気の毒だが、とくに横田さんなどのケースのように「外国で」、「その国の国民」、「しかも、政治色や特殊な技能をもっているわけでもない庶民を」、「まったく力ずくだけで」拉致するなどというのは類例を見ないとんでもない暴挙である。特殊機関による拉致はそこそこ世界中にあるのだが(西側先進国もやってきた)、これはあまりにもひどい。もっとも、韓国も世界的な作曲家である尹伊桑を北朝鮮との接触を理由に67年にKCIAによって当時の西ベルリンからソウルに拉致したり、1973年には金大中事件を日本で起こす、政府に批判的な在日韓国人を拘束するなどしていた。北朝鮮もハイジャックされた飛行機の乗員の一部を「自発的に留まることにした」などといって返さないなどという暴挙を行っている。南北どっちもどっちの拉致合戦のなかで、外国人にまで範囲を広げる勇み足をある時期にしたことの犠牲者が日本人拉致被害者である。
 
問:これまでの拉致問題についての政府の努力は不十分でなかったのか?
 
答:どうにもやりようがなかったというのが実情だろう。この問題に触れたとたんに会談の席をけるのだから、仮にこれまで以上に強硬にこの問題を取り上げていたら、今回、生還された人々も身の安全が保たれたか疑問である。私は北朝鮮が頑なな間は、表ではそれほど騒がず、裏では最低限身の安全を確保することを強く求めるというのがとりあえず賢明だ考えてきたが、それよりよい方策があったとはいまも思えない。しいていえば、第三国発見方式とか寺越さん方式のような変化球だっただろう。というより、今回、五人の方が無事生還されたのはそうした慎重さの賜物とみるのが普通だろう。むしろ、さらに拉致問題をとりあえずは公式の場ではいわないで交渉を進展させ最後に持ち出すという方法のほうが結局は急がば回れだった可能性もあるが、金正日の継承後の権力基盤が不安定で交渉を早められない状況があり、また、開放経済に向かうことも躊躇していたような事情があちらにあった以上は何をやっても無駄だった公算が強い。ただし、CIA的な活動を強化し、情報収集をもっと充実させる余地はあったかもしれない。かなり怪しげな手段も必要でもちろん、両刃の刃だが。
 
問:北朝鮮との交渉で拉致問題にもっと重点を置くべきか?
 
答:小泉訪朝の前に私は、ほぼ拉致が確実と日本政府として考えている人たちの一部ではなく全員の安否確認と生存者の帰国の約束を大前提して最初に議論し解決すべきだといった。それは最重要かどうかはともかくとして、拉致したままでそれも認めないのでは交渉に入れないからであった。その条件が満たされた以上は、ほかの問題にも十分な配慮を払うべきであり、この問題ばかりを扱って核開発や経済協力などの議論があまり遅れるのは好ましくない。むしろ、経済協力などの中身がはっきりしてきた方が、拉致問題についてのさらなる進展も望めるはずだ。
 
問:子どもたちはただちに日本に来させるべきか?
 
答:個別ケースについて専門家を交えて相談しもっともよい方法をみつけるべきであろう。高校や大学の途中でいきなり言葉の分からない土地へ連れてこられて、おそらくまったく内容の違う日本の教育を受けさせてよい結果が出るとは思えない。北朝鮮では漢字を使わないから韓国の場合よりバリアは高い。きりのよいところまでは北朝鮮で勉学を続けるか、日本に来るか、あるいは韓国などに留学してもらうか、何回か行き来しながら一人一人につき慎重に判断すべきだ。いまいちばん大事なのは、子どもたちが前向きの人生を歩めるかであり、また、万が一でも、親との間の関係がおかしくなることがないように緻密な配慮を望む。最近の論調はこどもの立場に立っていないのが気がかりだ。曽我さんのケースはもっと複雑だ。普通には、夫君が訪日すれば米国から脱走兵として引き渡しを求められることになるそうで、それを避けるために仲間の脱走兵の犯罪を立証するための証言をすることで司法取引するという案も検討されているようだが、それは友人たちを裏切ることであり本人にとってあまりにも気の毒である。心が痛む。
 
問:ほかに生存者がいるのでないか。その人たちを救出する条件は?
 
答:可能性としてはそこそこある。たとえば、もっと北朝鮮にとって困る機密にふれているといったケース、それから悪い待遇の下にあって心身の状態が悲惨であるなどの理由で出しにくかったというようなケースにある種の期待がある。そうした人について北朝鮮側が情報を出す気になるとすれば、@情報収集を強化し、それなりの根拠を持って発見を迫る、A本当のことをいったときにも過激なリアクションはないという安心感を与える、などが必要なのではないか。また、国交回復を早く実現し北朝鮮社会の自由化が進んだほうが情報は漏れやすくなる。強硬に抗議ばかりするのは、正論で気持はよいだろうが、現実には、生存者発見を困難にするのではと憂慮する。また、真相究明から関係者の処罰まで強く要求しすぎると(引き渡しなどと言っている人もいるが)、それならかつての日本軍などの行動についても同じようにすべきという議論を誘発することを恐れる。
 
問:金正日体制は打倒すべきか?
 
答:北朝鮮が一気に崩壊という形での統一は望ましいのであろうか。間違いなく、韓国はこの混乱を受け止められないであろうし、治安と経済と両面で日本も危うい。北朝鮮の教育レベルが低くないとしても、市場経済の経験を持たないのだから、資本主義の労働市場で競争力をもちえない。中国は40年足らずの社会主義で市場経済に戻ったが、北朝鮮はすでに57年社会主義なのだ。それなら、北朝鮮の現体制の下で中国型の市場経済に少なくともいったん移行してもらうのがいちばん合理的だ。その場合に、金正日より開明的で、かつ、政治力がある指導者があの国にいるとはなかなか想像しにくいのが現実であろう。外国の政権の打倒などというのは全面戦争を覚悟しない限り考えない方がよい。
 
問:経済協力の条件は?
 
答:核疑惑などについて米国をそれなりに納得させるものがあるのが前提だが、そのうえで大事なことは経済的な意味で賢明な使い方をさせることだ。無駄金になっては、北朝鮮の人たちのためにならないのみならず、日本にとっても借款も返ってこないし、市場としても期待できないのだから当然だ。
 
問:日朝・日韓の将来は?
 
答:いずれは南北は統一するだろうが、そのときに、その国が親日的であるかどうかこそが私の関心であり、何世紀にも渡る平和の維持のために必要なことだ。そのためには、たとえどんなに腹が立っても北朝鮮のプライドもそれなりに尊重すべきであろう。真に愛国的であることは、自国の味方を世界に増やすようすることだと思うが、相手のことなど考えずに威勢のよいことが愛国的だと誤解する人が多いのが残念である。

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