8.鳴門・淡路観光のおすすめ いんちき発掘品事件は、ますます、ひろがってきているが、事件の根は深く、
遺跡保存についての考え方とか、歴史についての考え方とかについての根本からの反省が
必要だということはすでに書いたとおりである。しかし、やや、重苦しい話題だったので、
今度は、同じ「偽もの」でも、すばらしい模造品の使い方があるというお話をしたい。セーヌ川を見下ろすトロカデロの丘の上にあるショイヨー宮は、エッフェル塔の
ベスト・アングルとして知られているが、建物の内部にもいくつかの素晴らしい美術館が
入っている。そのひとつが、歴史記念物博物館(ミュゼ・ドゥ・モニュマン・イストリーク)で、
ここには、中世ブームのきっかけをつくった建築家、ヴィオーレ・ル・デュックが監修した
教会建築のコレクションがある。建築といっても柱であったり、玄関や屋根の上の飾り
だったりするのだが、本物はほとんどなくて、模造品が主である。
それでも、仕事の質の高さと系統だった展示で、中世フランスの魅力を完璧に伝える。よくできた模造品は、写真と違って実物の大きさと質感を実感することができる。
また、古い本物は時を経て変質しているし、保存のために展示方法にも制約がある。
だから、最近の博物館は古いものを展示するより、新たに作り直したもので構成することが
流行である。そんななかで、「名画」といういちばん模造品にとって厳しいジャンルに挑戦した
すばらしい美術館がある。鳴門大橋の橋のたもとにできた大塚国際美術館である。
ポカリスェットなどで知られる大塚製薬が滋賀県の信楽に工場をもっている関連会社で
大塚オーミ陶業というのがある。ここでは、長期にわたって色が変色しない大型の陶版に
写真などを焼き付ける技術を持っているが、これを利用して古今の名画一〇〇〇余点を
再現した。とくに大迫力なのは環境展示と呼ばれる部屋丸ごとの再現である。
ミケランジェロのシスティナ礼拝堂の大壁画を始め、ルネサンス初期の画家ジオットの手に
なる新約聖書物語をテーマにした壁画があるイタリア・パドバのスクロバチェニ礼拝堂など
素晴らしい。あるいは、レオナルドダヴィンチの「最後の晩餐」の部屋では、
ほかの三面の壁に「モナリザ」を始めとする巨匠の名作がずらりと並ぶルーブル美術館でも
見られない世界が現出する。ルーブル美術館のダヴィッド作「ナポレオンの戴冠」、
オランジュリー美術館にあるモネの「睡蓮」、マドリードのレイナ・ソフィア美術館に移った
ピカソのゲル二カなどの人気大作もそろっている。ギリシャ・ローマ時代に始まって、中世、ルネサンス、バロック、さらに近代から現代美術
まで、まさに夢の美術館である。とくに、中世美術などで交通不便な幻の名品に出会えるのも
嬉しい。モザイクのような立体性があるものも、うまくデコボコが再現されている。この美術館で予習してからヨーロッパ旅行をすれば、楽しみも倍加するだろう。
ここで得るものは、三度くらいのヨーロッパ旅行に匹敵する。照明なども、本物よりも理想的な形でされているし、柵やガラスなどないのもよい。
ひと通り歩くだけで四キロもの膨大なコレクションなので、美術館と言うよりは
テーマパーク並みだが、二、三回休憩しながらゆっくりと鑑賞したいものである。
幸い、徒歩範囲内から鳴門の渦潮見物の船も出ているし、鳴門大橋にはこの夏、「渦の道」という遊歩道ができて真上から渦潮を見下ろすことも可能になったので、気分転換して再入場すればよい。本物以外は認めないという潔癖性の人も多いだろうが、
そうした人には、法隆寺の建築群などのちの時代の修理で材料の入れ替えが進み、
飛鳥時代の木材などほんの少ししか残っていないというエピソードでも進呈しておこう。この美術館を見るだけでも全国から出かける値打ちが十分にあるが、
橋を渡って淡路島へ行けば、阪神・淡路大震災の際に出来た野島断層や壊れた民家を
保存した「北淡町震災記念公園」がオープンしていて、一見の価値がある。大人にとっても、十分ためになるが、子供たちの審美眼と防災意識向上にも絶好であろう。
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