9.森内閣への不信任案否決は当然の帰結(とりあえずの感想)

  今回の政争については、すでに先週、このニュース解説(7)で
「加藤氏の反旗は中途半端」
として疑問を呈したところである。
その趣旨は、不信任案に与するなら離党が当然であるし、また、
そうでないなら民主党なども加藤首班を支持するのもおかしいというものであった。

  民主党側は、加藤氏の離党を要求し、また、衆議院の解散を要求していたのだから
筋は通っていたが、加藤氏は「離党はしない」、「解散はすべきでない」という
立場だったのだから、支離滅裂であった。しかも、不信任案が可決されたとしたら
どうするのかということについて展望を何も語らなかった。
ひとことでいえば、どのような旧世代の政治家よりも不透明で策略だけの権力闘争を
指向していた。こんなつまらない行動が成功するはずがない。


  最近、首相公選論も盛んだが、総選挙で国民が選んだのと違う枠組みの政権というのは、
やはり、よくない。加藤氏が政権を強奪しようというなら、離党し、新しい政権構想を示して
解散を要求すべきであった。

  政権の行方についていえば、ともかくも森首相が信任されたのだから、
しばらくは、続投すべきであろう。内閣不信任案というものは軽いものではないし、
結果が出れば、いったん矛を収めるというのが政治のモラルだと思う。

  森首相は、内閣改造をすることになる。省庁再編を経た新しい各省庁における
初代の大臣であり、格別な重みがある。それだけに、ぜひとも、次代の政治を担う
政治家たちに責任ある地位につかせて仕事をやらせるべきである。

  かつて、田中角栄は、「外務、大蔵、通産の三閣僚と、党三役のうちふたつずつを
経験することが総理の条件」といった。ところが、最近の首相候補は閣僚経験が
あまりにも少ない。いわゆるYKKは三人とも外務、大蔵、通産のどれも経験していない。
それどころか、加藤氏など逃げ回ってきた。この三閣僚は外交と経済を扱う。
とくに、海外との厳しい経済分野での交渉を経験することの重要性は計り知れない。
この三閣僚以外なら、政治家なら誰でもつとまるが、この三つだけはそうはいかないのだ。

  別の機会に書きたいが、いまの日本では、「宰相を育てるシステム」が存在していない
のであり、これを再建することが肝要であろう。

  新しい内閣は、常識的には少なくとも三月末の来年度予算案成立までは責任を
持つべきであろう。その段階で、森首相がなお地位に留まれるかどうかは、
そのときの、内閣支持率などによるのではないか。

  そうしたなかでひとつの焦点は公明党であろう。当面の経済政策については、
森政権の考え方と公明党の共通項が多いのは間違いないし、それが、
自公保政権の存在理由だった。ところが、これから、教育とか憲法とかが
問題になってくると、森首相の「右寄り」の体質と公明党の伝統的なポジションとの齟齬が
拡大してくるだろう。場合によっては、たとえば、公明党でもいずれはついてこれないと
いうことになることが予想される。

今回の加藤氏らの軽率な行動の結果、自民党はリベラルな流れのスターを失い、
党全体として右傾化してしまうのでないかという懸念もあるが、そんなことになれば
自民党にとって自殺行為となろう。

  今回の政変劇の失敗は自民党的な政治の完勝というわけでない。
ここしばらく、青木前官房長官を軸に進められた強引な政治、とくに参議院比例区に
おける非拘束式の導入は憲政の常道からはずれるものであり、
それが今回の加藤氏の反乱の遠因だった。あるいは、教育基本法改正問題への
性急な突っ込みが創価学会の池田名誉会長の反対で暗礁に乗り上げたように、
自民党の主流派が、慎重さとかバランス感覚を失っていることへの反発も強くなっている。
今回のドタバタは、野中幹事長の筋の通った論理展開のなかで収まったようにみえるが、
加藤氏というリベラルな政治家を一方のバランサーとして活用してきた野中氏の戦略が
今後も続きうるかは予断を許さない。

  野党についていえば、民主党も「加藤氏が離党することが首班指名での支持の条件」
ということと、「ただちに解散を要求する」というポジションを堅持したことを評価したい。
ただ、欲を言えば、もっと、明確に政権構想を出してよかったのでないか。
政権の枠組みにしても、政策についても、より具体的な方向性があれば、
国民の支持もより広がったのでないか。なんでもよいから森政権を倒せればよいと
いうので寂しかった。補正予算の編成と省庁再編を控えたこの2000年11月という時期に、
しかも、加藤氏ら自民党の一部込みで政権をとるということの具体的なイメージが
なかったのは迫力を欠くものだった。

  さらにいえば、その背景として、鳩山氏が首相になれば日本はよくなるという期待が
盛り上がっていないことが根本問題なのだが。

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