12.「ジャンヌダルク」というオペラを知っていますか?

  私のアパートの近所にある、滋賀県立びわこホールは、西日本ただひとつの本格的な
オペラ劇場としてたいへん意欲的なプログラムを提供している。

  とくに、自主公演のオペラとして、ヴェルディのあまり知られていない作品を連続して
上演している。ここ三年はドイツの文豪シラー原作のシリーズで、「ドン・カルロス」、「群盗」、
それに今年の「ジャンヌ・ダルク(ジョヴァンナ・ダルコ)」と続いた。

  その「ジャンヌ・ダルク」だが、ヴェルディのオペラでも滅多に上演されないものの
ひとつで 、私も上演されたという話すら聞いたことがない。もちろん、日本初演である。

  どうして人気がないかというと、テーマが歴史上有名なエピソードであるにもかかわらず、
史実と大分違うので違和感があるのも一因だろう。
ジャンヌダルクとシャルル7世が恋をするし、最後も火あぶりにもならない。
それに、舞台転換がせわしい。
音楽も、やや安っぽくて特段に惹かれるような名旋律もない。
しかし、若書きならではの荒削りな魅力もあり、
良くも悪くも「さすがはヴェルディ、腐っても鯛」といったところか。

  音楽と言葉はイタリア、舞台はフランス、原作者はドイツ人というミックスだが、
ここでは、指揮者も演出家もドイツで勉強した人だけに、ドイツ色が強く、
ヴェルディの音楽付きのシラー劇といった印象。

  演奏はたいへん見事なもので、日本人だけでよくぞここまでと感激するに値する。
京都市交響楽団も、公務員的ルーティンでないまっとうな健闘ぶりだった。
客の入りは70パーセントほどで、この演目にしては健闘。
イタリアやドイツでなら、ほかの演目と組み合わせたセット販売でしか客を
確保できないだろうに 、たいし たものである。
一昨年来の一連の公演の成功による口コミと、「ジャンヌダルク」という題材の
分かりやすさのお陰だろう。昨年の「群盗」よりはアピール力のあるタイトルである。
他府県の人が多そうだったが、とくにオペラ先進県でもない当地で、
「椿姫」も「リゴレット」も見たことない人にはこういうオペラを見るのは
あまりおすすめでないから、致し方あるまい。
ついでにいえば、この交通便利でLDやDVDが発売されている時代に、
「日本初演」などということにかつてほどの意味があるかも疑問だが。

  こうした劇場の運営に当たっては、文化的な意義と多くの市民に楽しんでもらうのと
どちらを優先させるかは永遠の課題である。
私がパリに勤務したころ、バスティーユの新オペラ座がオープンして、これは、
「芸術水準を下げないが、多くの人が楽しめる演目を、分かりやすい演出で」という方針で
大成功していた。

  当初予定されていたマニアックな演目を避けて、新しい劇場ならではの設備を生かした
娯楽性もそこそこある演出が人気を呼んだ。 「オテロ」、「ファウスト」、「魔笛」といった
ポピュラーな演目はたいへん高い評価を得たし、パバロッティを主役にした
「仮面舞踏会」では場外に大スクリーンを設けて入りきれない観衆にサービスした。
あるいは、息を呑むほど美しい「白鳥の湖」をかなりの日数、連続上演して子供たちも含めた
滅多にオペラハウスに来ない多くの人をひきつけた。子供や初心者相手にしても、なまじ、
子供向きの演目より、本物の魅力に触れさせる方がより強い印象を与えるのでないだろうか。

  私の好みは、芸術至上主義よりバスティーユのような行き方にあるが、どうせ、
県内の客では満員にできないと割り切るのなら、純粋に芸術に徹するのもひとつの哲学か。

  ただ、それなら、納税者にとっての意義は観光振興と割り切って、できるだけ、
大津に泊まってもらいたいところだが、東京からも日帰りが可能なように、
午後二時開始で五時前には終わるのは、文化政策と観光政策のセクショナリズムのゆえか。

 それに、11月25日、26日が上演日だったが、紅葉のベスト・シーズンであり、
京都市内のみならず大津市内のホテルはどこも満員で予約を断るのに苦労しているような
日である。よりにもよって、こんな日にすることもあるまい。

  どちらが悪いのかはともかく、せっかくこれだけの水準のホールの運営が
なされているのだから、もっと、幅広く活用したいところである。

  オペラ・ハウスの運営はドイツやイタリアでは政治を揺るがすほどの大問題である。
それだけ金食い虫なのだから当然であろう。

  いずれにせよ、この演目に限らず、滋賀県民がすばらしく野心的な文化活動の
スポンサーとなって我が国オペラ運動の先端的な担い手となっていることは、
おおいに評価してもらいたいし、宣伝もすべきであろう。

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