202.議員立法はそもそも邪道ではないか

  報復攻撃への協力をめぐって、内閣提出だと田中真紀子外相の答弁が不安だから、
議員立法にしてしまえという議論がある。
議員立法だと法制局の厳しい審査もないし、答弁は議員がやるのだから、
今回のような泥縄的法律には向いているというわけだ。

  ふざけた話だが、議員立法が筋で内閣提出より好ましいという
馬鹿げた考え方の破綻をここに見る。
議院内閣制である以上は、政府提出こそが本筋である。
完全な三権分立になっている米国のまねを何でもしようというのがおかしいのだ。

  この問題については、かつて「さらば!霞ヶ関」(PHP研究所)で書いたことがあるので、
関係箇所を引用する。
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政府提案立法がなぜいけないのか

  立法、行政、司法という三権分立の原則からして、法律の提案は議員がするべきで、
政府提案は邪道だという意見があります。
私はこうした考えは議院内閣制というものと相容れないと思っています。
アメリカのように、大統領が直接選挙で内閣の不信任を議会は行い得ないし
閣僚は議会に出席する必要もないという場合には、
立法は議会でしかできないというにも一理があります。
それでも、アメリカ憲法では大統領は拒否権を持っていて、
それを覆すには議会は三分の二の賛成を得なくてはなりません。

  まして、議院内閣制をとっている国では政府提案が原則というのが普通の考え方です。
なにしろ、議会は自分たちで総理を選び、その総理が議員を閣僚にして
各分野の責任者にしているのです。
もちろん、民間人閣僚もいますが稀です。
その閣僚が政策の枠組みを定める法律を提案できないならなんのための閣僚か
ということになります。
経済政策などで案件ごとに負担や義務など国民にとっておいしくない話は
いやだとつまみぐいになって一貫性ある政策体系がとれないのではたまったものでありません。

  もっとも、私は議員立法に否定的なわけではありません。
政府与党としての一貫性といったことと関係のないような分野では
とくに積極的な意味があると思います。
なかんずく、道徳などに関わるテーマがそれに当てはまります。
最近も、臓器移植法案について党議拘束をはずして投票にかけましたが、
これはまさに適切なことです。
これから、死刑廃止なども議論になってくるでしょうが、
このようなことも議員立法になじむのではないでしょうか。
あるいは、首都移転の是非や移転先の決定などもそうです。

  さて是非はともかくとして、政府提案立法はどのようにして提案に至るかをちょっと説明しておきたいと思います。
各省にまたがるような案件は別ですが、普通はどこかの省庁内で議論は始まります。
たとえば、工業再配置法を改正しようとすれば、
通産省の環境立地局立地政策課で検討が始まります。
もっとも、その前に政府や与党内、あるいは省内でその必要性についての議論が
あるのが普通ですが、作業は担当の課で行うということです。
まず、担当課で法律の概要について提案が行われ、それが、局内の議論にゆだねられます。
そして、それが、省内の関係部局、さらには与党の関係部会などの賛同を
得るべく根回しが行われます。
そして、具体的な法律案の形になってさらに根回しが続きます。
そして、根回しが進んでくると内閣法制局に持ち込まれます。
内閣法制局では法律論として筋が通っているか、
他の法律と矛盾や不均衡がないかといったことを審査します。
たとえば罰則規定があるとすれば、要件は明確か、
罰則の内容が他の法律における罰則の重さと比べて著しく重いということはないか
などが議論されます。
また、文言が他の法律における用法と同じ考え方かどうかなども問題にされます。

  そして、内閣法制局の同意が得られると、他省庁に合議されます。
ここで、各省庁は意見を言いますが、すべての省庁の同意が得られないと
事務次官会議で採択されないということになります。
その過程で修正もされますし覚え書きなどが交わされたりします。
覚え書きは重要なものは局長などの名前になりますが、課長レベルのこともありますし、
覚え書きというよりは一方的なレターのような形にするようなこともあります。
また、どこかの省庁が反対ということを崩さない場合には、
強引に事務次官会議にかけると主張することもあります。
というのは、政府全体としてはおおよそ容認されているような法律案を、
細かい点にこだわって事務次官会議で反対するというのは勇気がいることだし、
自分の役所が提案を行うときに反対されるリスクを犯すことになるから
あまり我を通すわけには行かないのです。
しかし、事務次官会議を控えての攻防は熾烈を極めることもあって、
ぎりぎりまで調整しても合意が整わずにとりあえず延期ということも珍しくありません。
そして、内閣官房副長官を議長とするこの事務次官会議で合意が得られれば、
閣議にかけられることになります。
このように、事務次官会議での合意が得られないと閣議にかけられないという
現在のシステムには疑問が寄せられているわけですが、
現在のところ、こういう仕組みになっています。

  それに対して、議員立法の場合には、一定数以上の議員が集まれば
それだけで提案できます。
この場合には、衆議院、参議院にそれぞれ設けられた法制局が審査しますが、
内閣法制局に比べてスタッフもいませんし、審査も簡単で甘いものです。
三権分立のタテマエから内閣法制局には相談できないのですが、
法律の内容がいい加減では困ることは同じですから、議院が独自の法制局を持つよりは、
参考として内閣法制局の意見を聞くというようなシステムが本当はよいように思います。

  私が担当していた地域開発制度で新産業都市、工業整備特別地域の建設整備というものがあります。
四大工業地帯以外にも重化学工業中心のコンビナート的なものを
つくっていこうという制度で産業の地方分散にたいへん貢献しているものです。
このうち、最初にできたのは「新産業都市の建設に関する法律」で政府提案でした。
この法律では地域指定は政令にまかされましたが、指定は条件が恵まれた
太平洋ベルト地帯をはずして行われました。
そこで、太平洋ベルト地帯出身の議員が中心になって
「工業整備特別地域の整備に関する法律」を議員立法で成立させました。
助成内容などはほぼ同じですが、地域指定が法律でされているのが大きな違いです。
これをもし、政府提案で行おうとすれば
「新産業都市の建設に関する法律」の地域指定を追加すればよいだけだ、
目的の違いが元明確でなければならない、助成内容がほとんど同じというのはおかしい、
地域指定は政令で行うべきだとかいう指摘を受けて
内閣法制局の同意を受けることは不可能です。
それを、政治の意志として「細かいことはいうな」というのが議員立法だということになります。
あるとき、中学生向けの参考書会社から電話で問い合わせがあって、
「新産業都市と工業整備特別地域の違いは何かを参考書に書きたいので教えて下さい」
と聞かれました。
「政府提案と議員立法の違いでして、内容も目的もほとんど違わないのですが・・」
などと説明を始めたら、
「そんな答えを入試で書いたら正解になりません」などとおこられました。
しかたなく、誰もまじめに考えたことなどない違いを
六法全書を見ながらひねり出すことになりました。

  それから、議員立法などをするにも、議員の政策スタッフが
わずかしか認められていないからできないのだという意見があります。
この点は、これまで二人だった国費で雇える議員秘書に加えて政策秘書という
第三の秘書を雇えるようにしたことでかなり改善したはずです。
この政策秘書には第一秘書より高い給料が払われていますし、
本来の目的に合った立派な人もたくさんいますが、
単なる三人目の秘書としてしか使われていないケースもかなり多いことは残念なことです。

  いずれにせよ、私がここでいいたいことは、
「政治と官」という対立の構図でとらえるのでなく、
それぞれの閣僚のイニシアティブが各省庁の中で確立され、
政策や意思決定を責任を持って行える体制を体制をつくることが大事であり、
それを現状のままにしておいて、内閣機能の強化とか議員立法中心にすべきだというのは
筋違いではないかということです。

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結構役に立つ
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