339.「外務省はお粗末・だが亡命者が殺到したらどうする?」
  
 瀋陽総領事館の事件については、だんだん状況が明らかになってきたのでいまの段階の私の意見をまとめたい。
 
 総領事館の対応については、まったく予想できない事態でもなかったのであるから、職務怠慢は明らかである。総領事及び在北京大使の責任は大きい。まず、館員に対応マニュアルを明確にしておくべきだった。ビザ申請待合室に人が入っても気が付かないのでは警備体制として論外だ。こういう体制で、門扉を明けたままにして置いたら亡命を勧誘しトラブルを誘発したといわれても仕方がない。
 こうした状況のもとで問題の副領事にはいささか同情する。厚生労働省からの出向者らしいが、おそらく言葉の能力も十分でなかったのではないか。また、主たる任務は残留孤児についての仕事であってほかの問題についての知識はあまりなかったのであろう。それが許可なく領事館内に入った者がいてそれが北朝鮮からの亡命希望者かもしれないということまで気を回せというのは酷な気がする。
 ただ、電話で相談を受けた公使の行動は不可解である。推察すれば、現地からの報告の趣旨がよくのみ込めなかったのだろうが、警戒を呼びかける措置を執っていなかったことも含めて、在北京大使館の怠惰は目を覆うばかりである。
 東京では、総理の最初のコメントが「日中関係に配慮して穏便に」はひどい。「日中関係に配慮して穏便にすることも大事だ」と配慮事項として秘書官からいわれたことをそのままいったのだろう。自分で外交の基本が理解できてないからそういうことになる。配慮事項と基本的な筋の区別が付かないのは総理としての外交能力に根本的な疑問があるとしかいいようがない。
 中国側の対応については瀋陽の警察が外国公館警備マニュアルをきちんとしておかなかったのは怠惰である。
 
 ただし、その一方、マスコミの報道ぶりはいまに始まったことでないが威勢がよくないと視聴者に嫌われるといわんばかりの一面的なもので問題の全体像から眼をそらせている。
 
 そもそも、日本に限らず大使館や領事館はこの種の亡命者をどんどん受け入れるべきなのだろうか。私はそうは思わない。大使館や領事館へ亡命者が駆け込むのは例外だからこそ許容される。原則論をいえば、大使館や領事館は亡命者を匿うことはできるが館外に出したとたん駐在国の警察権が及ぶ。だから、中国政府は、日本政府が亡命者を匿うなら何人でも何十年でもそのまま館内に留まらせてはどうですかと開き直ることも可能であり不当でもない。そうしたらどうするのか。
 だから本音としては日本に限らずどこの外交公館でも本当の意味での厳密な意味での政治亡命者はともかくこのような難民などに駆け込んでもらうことはウェルカムではありえない。警備を厳重にして入れないようにしておきたいのだ。政治亡命者などは手引きする人がいて成り立つ場合が多い。
 
 北朝鮮からの越境者に対する中国の対応は非常に微妙なバランスの上に成り立っている。そもそも吉林省の朝鮮人自治区という存在は高句麗のころからの歴史もからんで矛盾をはらんでいる。私は韓国・朝鮮の人に「どうして領土要求をしないのか」というと彼らも窮するような微妙な問題である。
 そんなことで、中国政府もあまり国境警備を厳しくせずに行き来を黙認しているようなところもあるし、越境者の強制送還もそれほど厳密にはやっていない。そこには微妙なバランス感覚がある。まして、そこから中国国外に出国させるのは、家族がすでに米国や韓国にいるとかいった場合に「人道的な配慮」で例外的に認める以上のことではありにくい。北朝鮮との国境をフリーパスにして、国内に入ったら外国公館にどんどん出国を求めて入っていくのを黙認するなどというなどということには中国政府もできないし、逃げ込まれた各国も困るのだ。
 
 今回は韓国のNGOが手引きしたといわれているが、あらかじめテレビカメラを用意して日中両国の面子丸つぶれにするようなことをしてよい影響はないだろう。このような事件が起きると、今後は大使館や領事館周辺の警備は著しく厳しくなり、中朝国境の警戒もより体制が強化され、越境者の送還も増加するだろう。自分たちの功名心を満たすために多くのことを犠牲にしたのでないかと危惧する。
 
  今回、領事館で起きたことは、日中双方の不慣れから起きたみっともないスキャンダルだし、処分も必要だが、これを日中間の関係を悪くするような紛争に発展させるべきではない。筋を通す姿勢は示しつつ頭が熱くなりすぎないことが大事だ。問題の五人については、第三国経由で韓国に出せばよい。現状回復で領事館に戻すことを日本政府はいちおう要求すればよいが、こだわるべきでない。
 

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